千葉地方裁判所 平成4年(行ウ)4号 判決
原告
株式会社インテリアミラノ
右代表者代表取締役
鈴木好
右訴訟代理人弁護士
鰍澤健三
同
伊東眞
右訴訟復代理人弁護士
根木純子
被告
千葉県建築主事 石〓敏孝
右訴訟代理人弁護士
古屋紘昭
右指定代理人
土岐沢勇造
同
小沢延好
同
石橋賢二
同
五木田光右
事実及び理由
第三 検討・判断
一 争点1(個別指定を受ける必要性の有無等)について
1 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(1) 本件確認申請(平成三年三月二九日提出)で設置を計画する屎尿浄化槽については、屎尿と雑排水を対象とした長時間ばつ気方式(昭和五五年建設省告示第一二九二号第六の第四号所定)等によるものであつたこと。
(2) 右浄化槽については、処理対象人員五〇一人以上とするものであることから、千葉県の水質汚濁法に基づき排水基準を定める条例による上乗せ規制として、生物化学的及び化学的各酸素要求量(BOD)を一リットル当り一〇ミリグラム(一〇PPM)以下とする排水基準が適用されるものであつたこと。
(3) 右(2)のように水質汚濁防止法による排水基準につき県条例による上乗せ規制がある場合の浄化槽の性能・構造については、建築基準法施行令三二条三項では、「建設大臣が通常の使用状態において屎尿を当該排水基準に適合するよう処理する性能を有し、かつ、衛生上支障がないと認めて指定する構造としなければならない」との旨規定され、当該構造を指定する建設省告示(昭和五五年第一二九二号)が存するところ、当該告示では、許容BOD最大限度二〇PPMの場合の規定は有するが、これより厳しい基準を定める右県条例の許容BOD最大限度一〇PPMの場合に対応する直接の規定は存しないこと。
(4) 右県条例の排水基準に適合する浄化槽の構造に関し、被告の主張する「建設大臣の個別指定」については、通達(昭和五六年九月九日住指発二二七号)に明示されているが、被告が根拠とする建築基準法施行令三二条三項では明示されていないこと。
(5) 本件確認申請で設置を予定する前記浄化槽について、原告は「建設大臣の個別指定」を受けていないこと。
2 ところで、建築基準法三六条では建築物・建築設備の安全・防火・衛生上必要な技術水準の補足を政令に委任し、これを受けて、前記建築基準法施行令の規定が存するところ、右1(3)(4)によれば、同施行令三二条三項において、水質汚濁防止法に基づく県条例の上乗せ規制による排水基準を浄化槽の性能に関する技術水準としていると解されるけれども、その構造については特別な定めは見当らないから、当該建設省告示(昭和五五年一二九二号)の第六、第七にある許容BOD最大限度二〇PPMの場合を準用した構造を充たせばよいと解するのが相当である。
3 これに対し、被告は、本件確認申請で設置を予定する右1(1)の屎尿浄化槽は、右1(2)の排水基準に適合することを要するものであることから建築基準法施行令三二条三項により「建設大臣の個別の指定」が必要である、と主張する。
しかしながら、当該条項(同施行令三二条三項)には個別指定を必要とする旨の明示はない(右1(4))うえ、建築基準法では、法律・政令・条例で基準を定め、建築主事が建築確認申請に対し所定基準に適合しているか否かを個別に審査・判断するという仕組みをとつていて、建築確認申請とは別に、政令でその一部の設備につき「建設大臣の個別指定」という形で二重の審査を受けるような煩瑣な手続を国民に一般的に義務付けることを許しているとは解されない。
従って、本件確認申請で予定する屎尿浄化槽について予め「建設大臣の個別指定」を受けることが必要であるとする被告の右主張は採用できない。
4 そうすると、本件処分(建築確認申請不適合通知)については、本件確認申請において設置予定の屎尿浄化槽が「建設大臣の個別指定」を受けていないことから直ちに建築基準法施行令三二条三項に適合しないとした被告(建築主事)の判断は不当であつて是認できない。
被告としては、当該浄化槽について、前記建設省告示にある許容BOD最大限度二〇PPMの場合の構造に準じた構造を有し、かつ、所定の排水基準を充たす性能を有するか否かを審査して、所定の基準に適合するか否かを判断すべきであった、といえる。
そして、本件においては、当該浄化槽が右所定の構造・性能を有しないものであるか否かは不明である。
二 争点2(本件確認申請後に施行された条例の改正された基準による審査の可否)について
1 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(1) 本件確認申請が、平成三年三月二九日提出され、その後の同年七月一日に千葉県建築基準法施行条例の改正条項(同条例五〇条の四第一項を含むもの)が施行されたこと。
(2) 右条例の改正条項施行においては、改正前の申請には改正前の規定を適用するというような経過措置はなかつたこと。
(3) 本件処分(建築確認申請不適合通知)は、右条例の改正条項施行後である同年九月二日付で右改正後の日照確保に関する基準(同条例五〇条の四第一項)に適合しないことを一つの理由として為されたこと。
2 これについて、原告は、本件確認申請について申請時には施行されていなかつた条例の基準を遡つて適用することは許されない、と主張する。
しかしながら、行政処分は、原則として当該処分当時の法令を適用してなされるべきものと解されており(最高裁判所昭和四三年(行ツ)第一二〇号事件についての昭和五〇年四月三〇日最高裁判所判決参照)、本件確認申請後に施行された右条例の前記各改正条項は本件処分時(平成三年九月二日)には既に施行済であり、かつ、改正前の申請には改正前の条項を適用するというような経過規定もないから、本件処分において右条例の当該改正条項の基準によつたことにつき原告の主張するような違法はない。
3 また、〔証拠略〕によれば、本件確認申請については、前記建築基準法施行条例の改正後の日照確保に関する基準(同条例五〇条の四第一項)には適合しない部分が存したものと推認される。
4 そうすると、本件処分(建築確認申請不適合通知)につき右条例の改正条項を遡及適用した違法があるとする原告の前記主張は理由がなく、本件では、本件処分において、本件確認申請が日照確保に関する右改正後の基準に適合しないとした被告の判断は正当として是認できる。
5 なお、被告が本件確認申請の提出(平成三年二月二九日)から所定の三週間以内(建築基準法六条三項)に申請に対する処分をしないまま、右条例の改正条項の施行(同年七月一日)に至り、本件処分(建築確認申請不適合通知)は右申請後六か月余り後となったのは前記のとおりである。そして、このように時間が経過して、原告が、右改正条例施行前に改正前の基準による建築確認を得られなかつたのは、主に、被告が前記浄化槽につき「建設大臣の個別確認」を受けることが必要という判断の下に原告に当該個別確認を取得するよう補正を求めていた為と推認される(弁論の全趣旨)。そうであれば、本件確認申請に対する右資産が遅延については違法の問題が生じうるけれども、本件確認申請について現時点に至つては、前記のとおり被告において改正条例の施行前の基準で審査する余地はないのであるから、現在右違法があつたとしても本件処分を取消すべき原告の利益は存しないといえる。
第四 結論
一 以上の見当結果によれば、原告の本件確認申請には、被告が本件処分(建築確認申請不適合通知)において不適合とする理由の一つ、即ち、千葉県の建築基準法施行条例の改正条項にある日照確保の基準(同条例五〇条の四第一項)に適合しない点、が認められるから、本件処分時において、被告は本件確認申請に対しては右不適合通知(本件処分)をする外なかつたものであり、本件処分には、取消すべき違法は認められない。
二 なお、本件処分については、不適合とするもう一つの理由(当該浄化槽につき建設大臣の個別指定を受けていない点が建築基準法施行令三二条三項の規定に適合しない)については前記のとおり失当であり、右個別指定にとらわれて審査が遅延した問題があるけれども、これらの点は、本件処分を取消すべき違法とはならない。
三 よつて、原告の請求は理由がないことになるからこれを棄却し、訴訟費用を原告の負担と定め、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千德輝夫 裁判官 大久保正道 三島琢)